01

 巨大な迷宮が突如出現し、そこを中心として栄えた冒険者と商人の街、パルペブラ。
 パルペブラ近郊に「渋谷」という街が突然現れてから数ヶ月が経った。
 先日のベスタ族との衝突や粛清者と呼ばれる空から降りてきた災厄により疲弊していたパルペブラの住民にとっては突如出現した街の存在に混乱と恐慌をもたらした……かといえば必ずしもそうではなかった。
 混乱はやはりあったし、相次ぐ異常現象に顔を青ざめるものも居たが、そこは冒険者と商人の街。
 新しく現れた隣人に対して警戒心以上、とは流石に言えないまでも好奇と商機を持つ者も少なからず居た。
「いやあ、相変わらずパルペブラの人達はたくましいなあ」
「元々、正体不明の迷宮を中心に栄えた街だからな。 新しいもの不明なものについて受け入れる姿勢は他の街と比べれば強いかもしれない。 しかしな、だからといって不安や恐怖、それらからくる衝突がないわけじゃない」
「うん、そうだよね……」
「ああ、すまない。 別に君たちを責めているわけではないんだ。 アルク君たちの決断と行動には敬意を敬意を払うし、支持している」
 場所はパルペブラの冒険者達が集うギルドの一角、栗色髪の毛が頭頂部で撥ねている幼さに精悍さが付き始めた、そんな年代の少年と金髪のスクエアタイプのメガネを掛けた生真面目そうな青年が向かい合って座っていた。
 栗色髪の少年ーー異なる世界を遠望できる星見の街の代表的な住人であり、渋谷の街をパルペブラ近郊に混ぜた主犯格でもあるアルクはフォローとも取れる言葉に困ったような笑みを浮かべる。
 もっともメガネの青年ーージェイクとしてはフォローではあったかもしれないが、その言葉に偽りはない。
 規則と公正を重んじる彼の性格から他者を評価する際に偽りを述べることはない。
「とは言え、混乱が生じているのも事実だ。 当然だろう、突如現れたというのもあるが異なる世界の住人では持っている価値観が違う。 先のベスタ族の時もそうだが融和を進めようとなった段階で互いの文化の違いにより諍いが起きていたからな」
 当時のことを思い出したのか眉間にシワを寄せるジェイク。
 彼はギルドから冒険者が信用に足る人物かを監査する役割を委託されている公認監査士でもある。
 本来の職務とは異なるとは言え、混乱を収めるために駆り出されていたのかもしれなし、そうでなくともギルドに縁ある者としても、冒険者としてもあの騒動と無関係では居られなかっただろう。
 集落を作る程度には人数が居たとは言え、部族の一部でそれだったのだ。
 街1つが融合した今回の混乱は2度目とは言え、決して前回に劣らぬものになるのは予想できる。
「そこで少しでも混乱を小さくするための対策を行いたいと思う。 君らも色々と動いてくれているとは思うが協力してくれるか」
「もちろん。 僕らが招いたことだからね。 できる限りのことをするよ」
「助かる。 とは言え、そう大掛かりなことをするつもりはない。 結局のところ私ができるのはこれくらいだからな」
 そう言ってジェイクが取り出したのは1冊の本だった。
「これって、以前ジェイクが作ってた冒険者のガイドブック?」
「そうだ。 私は規則を守る意味に価値がある思っているという話はしたと思う」
「うん。 なぜその規則を守るのかその意味が分からないと誤ったり、怠ったりするって話だよね」
「ああ、その通りだ。 しかし先のベスタ族との接触により、まだ規則には重要な意味があると知った」
「?」
 首を傾げるアルクにジェイクは取り出していたガイドブックをテーブルに置きながらその疑問に答える。
「それは規則から、文化の違いなども学べる、ということだ」
「文化の違い?」
「そうだ。 ベスタ族にはベスタ族なりの規則がある。 これはまあパルペブラとファーランドにも言えるが文化が違うと規則にも違いが出てくる。 その規則の違いを紐解いていけば互いの歩み寄りのキッカケが見えてくる」
 シブヤに先駆けて共存することとなった部族との交流を進めていく上で発生したトラブルを思い出して眉間にシワを寄せるジェイク。
 それについてもアルクは率先し事態に関わっているため申し訳ない気持ちもあるが、きっとこのことについても謝罪は望まれていないだろうということは分かる。
「わかる気もするけど、なんだか話が大事になってるね」
「本当に突き詰めて行けば、もう学者たちの領域ではあるし、私もそこまでするつもりはないさ。 しかし、どんな規則を持って動く相手なのか知ることは相手を理解する助けになりそうかと思ってね」
 代わりに相槌と疑問を投げるアルクに対して、ジェイクも自身の経験から得たことを元にした考えを告げる。
「そこでシブヤ側の人間の話を聞きたい。 私1人で動くよりも現地を知る君たちに協力してもらったほうが話も聞きやすいだろう」
 アルクにも分かる話だった。
 異世界を渡り歩いてきた身としてはその世界それぞれの生活があり考え方があった。
 それを理解するには地味ではあるがやはり現地の人たちの話を直接聞くことが一番だと経験してきた。
 しかしそうなると、気がかかりな点もある。
「うーん、そういうことなら僕よりも鷹森先生やショウちゃんのほうが顔が広そうだけど」
 事態を招いた張本人としてはできることは協力したいが適材適所ということもある。
 そういう話なら自分よりも現在はシブヤの代表を努めている鷹森セイジや迷宮からの救出作業で認知されている伊野里ショウタの方が向いていると思うのだ。
「そうかも知れないが、彼らとは残念ながら私が今度はあまり接点がなくてね」
「なるほど。 それだったら僕から鷹森先生に頼んで協力してもらうっていうのはどうかな」
 確かにジェイクが二人と接点があるという様子はなかった。
 それならば確かに自分にもできる役割があるだろうと提案する。
「ああ、それはとても助かる」
「それじゃあ、まずはシブヤに行こうか」
 善は急げでは無いが早速向かうこととなった。



「なるほど、お話はわかりました。 私達としてもパルペブラと融和が進む活動は嬉しい話です」
 場所はシブヤの避難所後。
 事情を説明したところシブヤの代表者である鷹森は好意的な反応を返す。
「ということは、協力していただけますか」
「はい、もちろんです。 ……と言いたいのですが、何分こちらも人手不足な上、法律などに詳しい人間がいないので、大したお手伝いができるわけではないのですが」
「かまいません。 知識に関しては本で補うなど方法があります。 私としては住人たちの声を聞いて回ることを許可していただければと」
 困ったように言う鷹森にジェイクは元より自身の足で情報を収集するつもりだったと告げる。
 その言に鷹森はやや驚いた表情になる。
「ご自身で聞いて回られるのですか」
「ええ、やはりいきなり部外者が接触して回るのは難しいだろうか」
 ジェイクは今回の行動についての懸念点を告げる。
 シブヤの人間に不用意に接触することで警戒心をより強めてしまうのではないかと
「そうですね。 まだ感情的にもパルペブラの方々に壁を感じている方がいますし、警戒心を持たれるかもしれません」
「やはり、難しいか」
「いえ、少しでも融和が進むキッカケになるならお願いしたいと思います。 ギルドの皆さんの協力もありシブヤの人たちも少しずつ今の生活を受け入れる努力をし始めていますし、いつまでも我々も交流に対して消極的というわけにも行きませんからね」
 しかしジェイクの懸念に同調した上で実行に移すべきだと鷹森は言う。
 そう言う鷹森からは確かにこの状況をより良くしていこうとする意志を感じられた。
「ありがとうございます。 とはいえ、あまり私も人好きする性格ではないようなので、顔が利くアルクやできれば友人の伊野里くんには付き合っていただこうと思います」
「ああ、伊野里くんは迷宮からシブヤの人たちを救出しているので確かに彼がいると警戒は解けそうですね」
「やあ、なにせ『飛翔王子』だからなあ」
 アルクは友人に付けられたあだ名を口にして笑う。
 順調に後は予定を決めて聞き取りを行うだけ、という状態になったところでジェイクはやや思案顔で呟く。
「しかし、二人に頼りっぱなしというのも良くないな。 私自身も少し歩み寄る努力をしてみよう」



   02

 約束をした当日。
 現れたジェイクの姿を見てアルクとショウタは呆気にとられていた。
「えっと、ジェイクが言っていた歩み寄る努力っていうのは」
「ああ、見た目だけでも君たちシブヤの文化に合わせようと思ったのだが、どうだ」
 ジェイクはいつもの冒険者としての姿ではなかった。
 というかパルペブラではあまり見かけない格好だった。
 しかし最近はシブヤの人間が良く着ているのを見かけている。
 先日会った鷹森先生も同じような服装だった。
 つまりはスーツだった。
 どうだ、という問いに対しては、似合っているかにあっていないかで言えばメチャクチャ似合っていた。
 何故かいつもの大剣は見当たらないが代わりにビジネスバッグを所持していた。
「やあ、似合ってはいると思うけれど、なんでスーツ」
「鷹森さんを参考にさせてもらった。 シブヤでは公的な立場にいる人間はこのような格好だと思ったが違ったかい?」
「やあ、間違ってはいないし似合っているけども」
「似合いすぎてまるで役所とかの人みてえだな」
 口ごもるアルクに対して相変わらず遠慮なく思ったことを告げる。
 その言葉にわが意を得たりとばかりに深く頷くジェイク。
「役場の人間に見えるなら良いだろう。 警戒心を和らげるのが目的だからな」
 満足そうなジェイクに、しかしアルクとショウタの反応は芳しくなかった。
 シブヤのというか彼らの生きた時代では役所の人に急に話しかけられたら警戒心を緩めるかと言われると、かなり微妙だった。
 それを着替えてしまった今更言っても仕方ないことだが、今回はお互いの意識の差を調査するのが目的ということもあり、申し訳無さそうそう伝える。
「なるほど、そういう見方もあるのか。 確かにパルペブラでもギルドからの干渉を快く思わない人間もいるな。 そういう共通点があることもメモしておこう」
 ジェイクは特に不快に思うわけでもなく納得言ったというように頷くと、ジャケットのポケットからメモとペンを取り出して書き込み始める。
 書き終わるとジャケットのポケットへと収めた。 何とも流れるようで手慣れた仕草に本当に普段から着用しているのではないかと思えてしまう。
「しかしそうなると私のこの格好も無駄ということになるか」
 自分の格好を見下ろして問うジェイクにアルクとショウタは顔を見合わせた後に笑って言う。
「まあ良いんじゃねえか。 どうせ反発する連中はどんな格好していても突っかかってくるだろうし」
「やあ、まあ似合っているし良いんじゃないかな。 割りと受けは良いかもよ」
「受けの良さというのはわからないが、問題なさそうなら早速聞き取りに行くとしよう」
 ジェイクは良くわかないという顔をしたが、問題なさそうならと納得することにして、聞き取りへと向かうこととなった。



「うーん、規則の違いと言われても、色々ありすぎてなあ」
「でも、やっぱり武器が普通に売ってるのは驚きだよな」
「わかるー。 本当にゲームやマンガみたいな異世界なんだなって」
「お店って言えば、露店が多いのも新鮮だよね。 うちらは買い物って言ったら店舗だからね」
「買い物って言えば物価も良くわからないよなあ。 それで偶にぼったくる店もあるから気をつけろと言われても」
「治安って意味でもやっぱり日本は平和だったんだなあ」
「ギルドナイツって人たちが頑張ってくれているみたいだけど、元々荒っぽい人たちが集まりやすい場所だからしかたないんだろうけど」
「規則ってのはわからないけど見回りに来てくれるのはでも助かってるよね」
「ギルドナイツって警察みたいなのだっけ。 パトロールとかしてくれるのは嬉しいけど、やっぱり前ほどには治安は回復してないね」
「パトロールや交番ってありがたかったんだなあ」
 以上、聞き取りした成果の大まかな内容出会った。
 場所はシブヤでも営業を開始した喫茶店の一角。
 一通り聞いて回った情報をまとめるため休憩を兼ねて立ち寄っていた。
「なるほど、色々と意見が出てきていたが、そうか規則が守られているかの取り締まる組織がシブヤにもあったんだな」
「まあなー、シブヤがあんなんなって能力者が出てきてからはほとんど機能しなくなっちまったけど、それでも今考えるとあんな状況でも俺らを守ろうとしてくれている警察の人とかいたんだよなあ」
 ショウタが当時を思い出しながら惜しむように言う。
 シブヤが孤立したときも、能力者が出てくるようになって規則が瓦解するよな状況になっても、職務に忠実であろうとしてか、あるいは自身の倫理観に従ったのか、人々をあるいは社会の秩序を守ろうとした人たちがいた事は忘れるべきでは無いだろう。
「んで、何か参考になりそうな話はあった?」
 ややしんみりとした雰囲気を払うように軽い口調でショウタが先を促すように問う。
「どの話も貴重な意見だが、やはり特に気になったのはパトロールだけではなく各所にその起点となる拠点を作ることで規則と治安を維持する抑止力にする、か。 これは予定外の収穫だな、ギルドの方にも相談してみよう」
「大丈夫かな、ギルドナイツも人手が足りてないみたいだし、シブヤにまで駐在してもらうのは結構な負担になりそうだけれども」
「そうだが、必要な投資でもあるだろう。 まあ判断自体は彼ら自身に任せるとして、私たちは情報の整理を……」
「ふざけんなよ!」
 唐突に話を遮るような怒鳴り声が響き渡った。
「なんだ?」
「揉め事のようだな。 行ってみよう」
 店の外に出ると通りの方でシブヤの少年と服装を見るとパルペブラのある世界と住人と思われる商人が言い争っていた。
「お前のところで買ったこのペン、全然書けねえじゃねえか! 書けないどころか、書いてたメモが燃えたぞ!」
「ああ!? 売るときに言っただろう! このペンはただのペンじゃない特別なペンだって!」
「書いたものが燃えるようなもんはペンって言わないんだよ!」
「あー、また迷宮から出てきた物を勝手に売った商人と客との揉め事かな」
「相手はシブヤの人間か。 こういうトラブルの場合はギルドに届けるべきなのだが、知らないようだな。 しかし堂々と居直っているあたり、あの商人も新参か」
「そうだね。 迷宮から出土したものを勝手に売買したなんて分かったらギルドに罰せられるのに、こんな往来であんな言い争うなんて」
「それかシブヤならばギルドの目も緩むと考えたのかもしれないが、規則を破ることの重さが分かっていないな」
「ほっといてもギルドナイツの人たちがどうにかするだろうけど、周りの人の迷惑だし……っておい、アイツ」
 激昂するシブヤの少年の周りに青白い火花が弾け始めた。
「能力者かよ!?」
「ヒッ!」
 自分が今まで喧嘩と不良在庫を売っていた相手が、自分を害することができる存在だと今更のように悟った商人の顔が引きつる。
 アルクとショウタも流石に眼の前での障害沙汰を見過ごせるわけもなく飛び出そうとする。
「テメエ、舐めるのもいい加減にーー」
「そこまでだ!」
「がっ!?」
 だが、それよりも早くジェイクが持っていたバッグの面部分で少年の顔面を殴打して、能力の発動を阻止した。
「騙された憤りは分かるが、こんな往来で凶行に及ぼうと言うなら見過ごすわけにはいかないな」
「ってえな! なんだテメエは!?」
「ギルド公認監査士のジェイクだ」
「こう……かん……? なんだギルドってことはギルドナイツとかって連中の仲間か!?」
「難しい質問だな。 彼らとは確かに個人的に有効的な関係を築いているが、ギルドナイツという組織に属しているわけではない」
 そんな生真面目な返答に少年は混乱により一度は収まりかけた感情が再び高ぶっていく。
 それに伴い再度少年の周りに火花が散り始める。
 しかし、ジェイクはそれに慌てることもなく少年に向かって告げる。
「見たところ君の能力はその周りに弾ける火花による威嚇なのだろう。 戦闘に慣れていないものには有効だろうし、軽いショックなら相手に与えられるかもしれない。 しかし戦闘に慣れているものにはその程度の力では脅威にならないぞ。 それでもまだやると言うならばーー」
 バックに手を入れて一気に中身を引き抜く。
 すると、そこには彼が愛用する大剣がーーどう考えてもバックの中に収まるはずのない大きさの剣が握られていた。
「武力を持って介入させてもらう」
「いや、どうやって収納していたの!?」
 思わずツッコミを入れてしまうアルク。
 眼の前でこんな手品まがいなことをされれば、いくら色んな世界を渡り歩いてても言いたくはなる。
「武器の携帯性については以前より懸念をしていたのだが、使い慣れた武器を変えるのも不安が残るのでね。 悩んでいたところアルクの役に立つならとベルセティアさんが細工をしてくれたこのバックを渡してくれた」
「……相変わらず愛されてんな、アユム」
「何をやっているんだよ、あの人」
 知り合いの魔女が物凄く良い笑顔をしているのがアルクの脳裏に浮かぶ。
「さて、それでまだやるのか?」
「ぐ、ぐうぅぅ」
 しばらくジェイクを睨む少年だったが、目の前の剣とジェイクの顔を何度か交互に見た後に方を落とす。
「は、はは、ざまあみろ、よそ者がイキがるからーー」
「さて、次はあなたの番だ」
「へ?」
 少年に対して勝ち誇ったように笑い罵ろうとする商人に対して、ジェイクは冷たい目を向ける。
「届け出のない迷宮からの出土品を無断で販売、この規則破りの重さ、重々承知しているだろう」
「あ、あうぅぅ」
 直前までの勢いはどこへやら、青ざめた表情で崩れ落ちる商人。
 そんな様子を少し離れたところから見ていたアルクとショウタは思う。
 少なくともジェイクの前では規則違反については行わないよう気をつけようと。

   03

「はい、たしかに受け取りました。 以前作成していただいた本と同じようにこちらもギルドの方で配布しておきます」
「私の方でも渋谷の街でこちらの本を配らせていただきます」
 リリエと鷹森がジェイクから彼がまとめたパルペブラとシブヤでの規則について比較した本を受け取る。
 あれから数日、聞き取った情報をまとめて再度ガイドブックの執筆を行ったジェイクはをそれをパルペブラとシブヤの双方で配布してもらうことにした。
「これが少しでも2つの街の融和に繋がることを願うよ」
「ええ、私たちもこの本を無駄にしないためにも一層努力します」
「ですね☆ ギルドとしてもシブヤ側での活動を広げられるよう掛け合ってみます」
「ありがとう。 ところで、ギルドナイツとしては先日報告した件はどうにかなりそうかな」
 そう言ってジェイクは少しもう一人の人物、ギルドナイツの副隊長キーラに声を掛ける。
「正直、すぐには対応できるとは言えないな。 懸念の通り人手不足からシブヤに駐在できるほどの余力は無いそうだ」
「そうか。 まあ難しい話だろうとは思っていた」
「そこであっさりと納得されるとギルドナイツの一員としては忸怩たる思いだな」
 先日得た着想。 シブヤにギルドナイツが駐在する拠点を設けるという案が難しそうと言われても落胆も見せないジェイクに、返事を持ってきたキーラのほうが顔をしかめる。
 元々生真面目な性格なので、改善できる案があってもそれが実行に移せないことに彼女自身が悔しくて仕方ないのだろう。 ひょっとしたら、この返答を持ってくる前に上にかなり食い下がってきたのかもしれない。
「団長には『武装したパルペブラの人間があちこちに居てみなよ。 シブヤの人たちも余計警戒しちゃうでしょ』とのことで、すぐには難しそうです」
「なるほど、それも道理だな。 さすがに良く見ている人だ」
「だが、シブヤの人たちの中でギルドナイツに入ってくれた人たちも居る。 その人達が拠点をシブヤに移して活動すればあるいは!」
「ええ、そうですね。 一番は見張りの目がなくても大丈夫な治安ですが、それはまだ高望みというものでしょう」
「そうかも知れないが、それでもそこを目指す価値はある」
 大人としてはあまりにも甘い夢想に苦笑する鷹森に、しかしジェイクはその理想にこそ価値がある。
「そのためにも我々は規則を守る意味を伝えていく必要がある。 いずれ皆が自身で律することができるようになるために」
「そうですね。 変えていく我々が先に現実に妥協をするわけには行きませんね」
「いやー、でもですね。 あまり締め付け過ぎるのも自由がなくなると言いますか。 程々にしないとディストピアになっちゃいますよ」
「もちろんです。 締め付けは良くありませんからね」
「いや、待て。 プ・リリエ、君はかなり自由に振る舞っていると聞く。 君自身が動きにくくなるからという理由ではないだろうな」
「いやいや、そんなわけ無いじゃないですかー」
 そう言いながらもリリエはジェイクから目を逸らす。
 ジェイクはリリエに向ける圧を増やす。
 リリエは冷や汗を流し始める。
 ここにリリエを慕う緋川リンネがいれば間違いなくジェイクに食って掛かっていただろう。
「君の行動が私欲ではないことは分かっているが、例外をあまり認めると規則の意味がない。 そのことを決して忘れないでくれ」
「は、はい〜。 もちろんですよ☆」
 ジェイクの釘刺しに引きつった笑みを浮かべるリリエ。
 そんな様子に鷹森は笑い、キーラは疲れたようにため息をつく。



 これからしばらく後、ウォルンタス魔法学院の学際「マギア・フェスタ」による交流を経て融和はより進み、他世界からシブヤに移住してきた星見の街にゆかりがある面々がシブヤの人たちと組んで自警団を組んだことでギルドナイツ駐在に変わる治安維持に務めることになるのはまた別のーー未来へ紡ぐ世界の歌と正月ツインクのキャラエピソードーーに話になる。
 それらが無事に受け入れられたのも、そこに至るまでに融和を勧めていった人たちの努力があったからだろう。
 そこにジェイクが今回作った互いの規則の違いを続くったガイドブックも一役買ったかは、パルペブラとシブヤの住人たちのみぞ知る。



あとがき

 念願のワールドフリッパーの二次創作1作目!
 一部で切望されているジェイクの衣装違い版が出るとしたらどんなんだろう、で書いてみました。



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