何故だかなんて解らない。解らないよ。だって、気が付いたときにはそうだったんだし、気が付いちゃったらもうどうしようもなかったんだから。だから、本当に仕方ないことじゃない。
 みんなが反対するのもわかるよ。だって、あの人は違う。全然違う。あたしはあまり言葉で言うのが得意じゃないから、ソレくらいしか言えないけど、とにかく違った。周りから浮いてるんでも無い、ずれている訳でもない。それなのに、独りだけ一目でわかるくらいに違っていた。別に見てくれが群を抜いて優れてるって言うわけじゃないんだよ。よく言う光輝いてるなんてことも無かったしね。見た目も印象もとっても地味で冴えなくて、それでもあたしには鮮烈だった。《埋もれた名作、ただし既に腐敗気味》みたいな。
 とにかく、あたしにだってあの人が普通の人間が関わるには異質すぎると言うことくらい解った。むいみちゃんや秋春くん、それにともちゃんが反対するのは仕方ないと思う。みんなあたしの事を心配してくれてるんだともわかってる。…………ともちゃんがあそこまで強く反対したのはちょっと予想外だったけど、それも何となくあとで納得した。
 そして、納得しちゃったからこそ、あたしは――――。
 とにかく、みんなが反対するのはわかる。だけど、あたしも譲れなかった。
 だって、あたしはきっとあの人を好きになるって思ったから。
 いくら、あたしが感情的に生きてるとは言っても、それでもここまで確信を持って思ったことは無いんだよ。
 あたしは、あの遠い人に――、
 いっくんを好きになったんだよ。
 ようやく、会話できるチャンスを得たときは、すぐに昂ぶる感情が爆発しないように押さえつける大変だったんだよ。いっくんは信じないだろうけど、あの時アレでも精一杯感情的にならないようにしてたんだからっ。
 それなのに、忘れてるのはちょっと酷いんじゃないかなっ。すっごいショックだったんだからねっ。
 でも、やっぱりあたしはいっくんが好きなんだって、解ったよ。
 ねえ、いっくん。いっくんはどうかな? いっくんはあたしの事をどう想ってくれてるのかな?
 きっと、いっくんがあたしが望むような事を想ってくれてるなんて思えないけど、それでも少しで良いから欠片でも良いから、そう想っててくれたら嬉しいな。
 いっくんが例えどれだけ酷い人だったとしても、
 いっくんが例えどれだけ怖い人だったとしても、
 あたしは、いっくんのことが好きだよ。
 だから、昨日は本当に楽しかったよ。
 いっくんと一緒に街を歩いて、いっくんと一緒に店で買い物して、いっくんと一緒にご飯を食べて、いっくんといっぱいお話して、いっくんに服を似合ってるよって言ってもらって、いっくんといっくんといっくんといっくんといっくんといっくんといっくんといっくんと、ずっと一緒に居られて。
 夢のように幸せだった。
 ココロがバラバラになってしまうくらいに、感情的にハシャイじゃった。
 仕方ないよね。いっくんはそのつもりじゃなくても、あたしにとってはいっくんとの初めてのデートだったんだから。
 そんな幸せで幸福で幸運なあたしを、いっくんはまるで壊れた悪夢でも見るように眺めているだけだったとしても。
 うん、わかってるよ。わかってたよ。きっとこれが最後なんだって。いくらあたしだってそれくらいは、わかるよ。だけど、受け入れたくなんか無かった。それほどまでに幸せだったから。それほどまでに怖かったから。
 あたしのしていることが、あたしがしてしまったことが。
 いっくんのことが。
 ねえ、そんなにいけないことなのかな? ダメなことだったのかな?
 そうなんだろうけど、許されることじゃないんだろうけど、それでも――救って欲しいって、助けて欲しいって思う事すら許されないのかな。
 うん、わかってるよ。もう、いっくんの答えは聞いたもんね。聞かされちゃったもんねっ。
 だから、今度はあたしが答える番なんだよね。
 だけどダメだよ。ムリだよ。そんなの答えられるわけ無いじゃないっ。
 酷いよ。酷いよ、いっくん。やっぱりいっくんは怖い人だよ。
 いっくんは人を殺したりなんかする人じゃないけど、殺したりなんかしないからこそ、まるで殺人鬼みたいに怖いよ。
 助けてよ。助けてください。助けろっ。
 許せるかって? 許せるわけが無いじゃないっ。絶対に許さないっ。
 あたしはともっちゃんを殺した人殺しを許さない。
 あたしはいっくんに好きになってもらえないあたしを許さない。
 あたしは、あたしを助けてくれないいっくんを絶対に許さないっ。
 辛いよ。苦しいよ。悲しいよ。
 だからもう、終わりにしようと思う。
 いっくんが来る前に終わらせるよ。いっくんにはもう会いたくないから。もう一度会ったら、言葉を交わしたら、今度こそあたしは取り返しのつかないところまで壊れてしまうだろうから。
 せめて、巫女子が巫女子のうちに終わらせて。ソレくらいのことは許してくれるよね。……ううん、答えは聞かないよ。聞くまでもないもんね。いっくんがなんて言うかくらい、巫女子ちゃんにはお見通しなんだよっ。
 ねえ、いっくん。いっくんは誰に殺されるのだって同じだって言ったよね。結局のところ殺されるんだから、誰にどんな風に殺されたってそれは同じだって。
 でも、あたしは違うと思う。あたしは違うよ。
 だから、決して間違わないでね。あたしを殺すのは、いっくん――君なんだからね。
 それを誰が殺しても同じなんて言わないでね。いくら記憶力が悪いからって言って忘れないでね。
 ねえ、いっくん。
 いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。いっくん。
 あたしのこと忘れないでね。忘れちゃダメなんだからね。
 いっくんのことが好きで、大好きで、いっくんに殺された女の子のこと、絶対に忘れないでねっ。
 それじゃあね。バイバイ。さようなら。お別れだね。
 最後に、これだけは伝えたかったな。
 あたしはいっくんんことを絶対に許さない。
 あたしを殺したいっくんを決して許さない。

 だけどあたしは――
 そんないっくんのことが、大好きです。





寝言

巫女子ちゃん命日記念。
って、どんな記念だよ。しかも遅いよ。何だって、久しぶりの更新がこんな暗い話なんですかねえ。
巫女子ちゃんの死が、戯言シリーズにおける《萌えキャラ殺し》の始まりだったと考えると、実に記念すべきキャラでもあるわけなんですよね。
うん、だからってこんな話を書いた言い訳にはならないけど。
次はもうちょい明るい話を目指して頑張ります。

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