屏風の虎を縛りたいなら画家を呼べ。


   

 今日という日はもう二度とやって来ないと言うが、果たしてそれは本当にそうなのだろうか。
いや、事実今日という日は今日だけである事には疑いようは無く、ここで昨日は昨日の時点では今日だったとか明日になれば明日が今日になるなんていう愚にも付かないような戯言を言うつもりはこれっぽちも無い。
 だがしかし、だ――確かに今日という日は今日だけかもしれないが、それが一体どうしたというのだろうか?
 昨日が今日でなくて、明日が今日ではないからといって、それのどこに何の問題があるというのだろうか?
 今日という日が二度とやって来なかったところで、やっている事は昨日と変わりなく、明日やる事も今日と変わらない。読む本は違っても、中に書かれている物語は同じようなものだ。結局のところ今日は昨日の復習で、今日は明日の予習でしかない。
 学習内容が同じである以上、いくら学ぼうと結局同じ事の繰り返しで学んだことを活かす術が無い。そもそもそれで何かを学べるならば良いが、結局何も学べない者も少なくは無いのだ。
 そう、例えばぼくのような人間だ。
 ぼくもまた何度も同じ事を繰り返している。
 同じような失態を繰り返して、同じような醜態を繰り返して、同じような罪悪を繰り返して、同じような最悪を繰り返している。
 飽きているのに、懲りているのに――
 諦め悪く、性懲りも無く、繰り返す。
 十年前から変わらずに、今になっても相変わらずに繰り返す。
 これこそ正しく愚にも付かない戯言だ。
 そう、今だってそうなのだ。
 家でのんびりとしていたら、久しぶりに知り合いの請負人が何の事前連絡も無く訪れて、にこやかな挨拶を交わすとともに、その手に握られている黒い箱体をぼくの腹部に押し付けて電気ショックを与えて(要するにスタンガンだ)、気絶したぼくはいつの間にやらその人の愛車である真っ赤なコブラの助手席に座らされている――なんていう、以前もあったような状況を繰り返しているのだ。
 …………。
「以上、状況説明終了」
「それはぼくの台詞です」
 運転しながらもしれっとそんな事を言う、誘拐犯に突っ込みを入れる。
 真っ赤なスーツに高価な染髪剤を使ったと思われる鮮やかな真紅に染め上げられた髪。抜群のプロポーション、座っていて分かりにくいが冗談のようにすらりと伸びた足。深い赤色のサングラスで目許は見えないが、それでも分かるシニカルな笑みを浮かべた美貌。
 本当に、この人も変わらない。
 初めて出会ったときから、この人には振り回されっぱなしだ。
「それで今回は一体何なんですか、哀川さん」
「…………」
 胸倉を引っつかまれ、そのままシートベルトを着用していなかったぼくの体を片手で易々と持ち上げると、車の外へと吊り上げられた。
 ちなみに、ここは高速道路で車は百キロ以上の速度で今も順調に走り続けている。
「あたしを苗字で呼ぶな、あたしを苗字で呼ぶのは敵だけだ。 今度あたしを苗字で呼んだら高速道路に落っことすって言ったよな」
「…………潤さん、本日はどういったご用件でしょうか?」
 言い直すと、哀川さんはぼくを荷物を扱うように(いや、荷物ならもっと丁寧か)助手席へと放り投げて、座りなおさせた。
「良し」
 良しじゃねえよ。
 まさか本当に落としはしないと思うけど、そうと思っていてもかなり怖かったぞ。うわっ、今頃になって嫌な汗かいてきた。
「しかし、お前もホントにしつこいよな。 わざとだってバレタ後でもこのあたしに向かって苗字で呼ぶなんざ良い度胸してるよ。 それともよっぽどあたしの敵に回りたいのかな? ん?」
「そんなわけ無いじゃないですか、ただのうっかりですよ」
「バーカ、うっかりミスで人は簡単に死んじまうんだぞ。 気ぃ抜いて生きてんじゃねえよ、気張って生きろ。 サボってんじゃねえっていつも言ってんだろ」
「相変わらず無茶苦茶な暴論ですね」
 たった今うっかりで死に掛けたのは事実だけど、思いっきり人災だしなあ。おまけにやったのはそれを言ってる本人だし。
 そうだな、今度からは気をつけよう。うっかりで死んでは笑えない。
 …………やはり電話越しが一番の狙い目か。
「今、あなたの後ろに居ます」
「? 何ですか、潤さん?」
「いや、電話ネタの王道って言ったらやっぱりこれかなっと思ってね」
「……………………」
 ばれてる?
 思いっきりばれてる!?
「え、えっと、それよりもあいか……潤さん、そろそろ本題に入りませんか?」
「ん? 本題?」
「今回はなんでぼくを拉致ったんですか?」
 そうだ。それが分からないとこの先に話が進まない。
 それに話の内容によっては今すぐこの場で高速道路に身を投げ出したほうが安全って言うこともありえる。シートベルトはその話を判断した後につけるとしよう。
「いやー、ただいーたんとドライブしたかっただけだよん」
「それじゃあスタンガンを使う必要が無いでしょ」
「だって、いーたん冷てえんだもん。 正面から誘って断られたら傷ついちまうからな、色々と考えて断られないで済む方法を考えたんだよ。 あたしって、け・な・げ☆」
 高速道路を運転中に脇見運転しながらウインクなんてやめて欲しかった。
 あと、ぼくはそんな情熱的で激しく痺れるような壊滅的愛情表現を受け入れられるほど大物ではないので、そんなものはただの苦痛でしかないし、苦痛に悦びを覚えるような趣味も持っていない。
「それで今日はどこまでドライブですか?」
「ちょっと澄百合すみゆり学園までだよ、ダーリン」
「――――」
 絶句するぼくに、哀川さんはニヤリと笑う。
 ああ、くそ、結局全部この人の手の平の上か。
 この人にはいつもこの手の敗北感を与えられる。困ったことにそれがそれほど不愉快なものなのではなく、むしろ心地良いということだ。
 だが、今はそんなことはどうでもいい。問題にすべき点は別にある。
 ぼくが絶句した理由、それは別にいつもの敗北感から来るものでも、ましてや哀川さんにダーリンなどと呼ばれたからでは断じてない。
 澄百合学園。
 哀川さんが言ったその目的地こそが問題であり――。
 そして、一連の行動の解答でもある。
「降りるかい? ダーリン」
「いえいえ、愛しいあなたのお誘いです。 最後まで同行させてもらいますよ」
 内心の動揺を無理矢理誤魔化すために精一杯の見得を切る。
 もちろん、哀川さんへの誤魔化しではなく、自分自身に対する誤魔化しだ。
「今回は女装させられないんですね」
「もしかして残念?」
 ニヤニヤ笑う哀川さんに大げさに肩をすくめて答える。
 まさか、だ。
「いやー、あたしとしてもまたいーたんのカーワイー姿を見てみたかったんだけどさ、さすがにもう無理がありそうだし、それに今回は生徒に化けてもらうのはあまり効率が良く無さそうだからね、残念ながら今回は普通に潜入してもらうことになったわけ」
「普通にって言っても、具体的にはどうするつもりですか?」
 ぼくの質問に哀川さんは「ほれ」と、自分の脇においてあったビジネスバックをぼくの方に投げて寄越す。
 哀川さんに確認して中を覗いてみれば、書類らしき紙が納められたファイルと何かの参考書が数冊、それに筆記用具一式が詰まっている。書類はどうやらぼくの履歴書と何かの契約書のようだが……これは一体?
「いーたんには澄百合高校に臨時講師として行って貰う」哀川さんはきっぱりと言う。「必要な裏工作と手続きは済ませてあるから、後はそん中の書類を提出すれば晴れていーたんも女子校の先生ってわけだ。 ああ、ちなみに基本的には受け持つのは高等部みたいだよ」
「ぼくの返答に係わらず、後戻りなんて出来ないわけですね」
 後戻りするつもりなんて無いけど、哀川さんの手際の良さには感心してしまう。ぼくを連れ出すところからも含めての話で。
 しかし、澄百合学園の高等部か。前ほどやばいってことは無いと思うけど、やっぱり自然と体に緊張が走るのは否めないよな。
「それでぼくは何をしてくれば良いんですか?」
「とりあえずは普通に講師をしててくれればいいよ。 内情が分かったら連絡してくれ」
「簡単に尻尾を出しますかね? いえ、そもそも尻尾を掴んでも切り離される恐れもあります」
「へん、そもそも尻尾も本体も無いならないで越したことは無いんだけどな。 ただ学校はどうしたって閉鎖的だし、相手はあの四神一鏡の檻神おりがみだからな。 調べるにしたって外からじゃどうしたって限界があるんだよ」
「そこでぼくの出番って言うわけですか」
「そういうこと、あたしじゃ目立ちすぎるからね」
 それは哀川さんの言うとおりだろう。
 その目立ちすぎる姿格好もあるが、それ以上に彼女の存在自体が相手の警戒を最高にまで高めてしまう要因となりえるのだ。
 哀川潤。人類最強の請負人。
 その冗談のような肩書きは、しかしまったく冗談などではなく、これ以上無いくらいに真実を表している。
 対してぼくは駆け出しの請負人。
 これでもかって言うくらいに無名な上に、見かけも特筆すべき点が見当たらないのが特筆すべき点だと言うくらいに、平凡な奴なのでこの手の仕事には向いていると言えなくも無い。
 もちろん、ぼくと哀川さんとではその技術に雲泥の差なんて言葉が霞むくらいには差があるのは大前提での話だ。
 それに、何と言うか、あの最悪の狐と意見が合うのは物凄く不本意ではあるが、この人が動くと必要以上の被害と疲労が押し寄せてくるので、出来うることなら哀川さんにはあまり動きすぎないで貰いたかった。
 しかしなあ、このぼくが講師なんて務まるんだろうか。そりゃあ、家庭教師のバイトくらいはやったことあるけど、アレは基本的には一対一でやるものだったし、授業でやったプレゼンテーションみたいなもんだと思えば気が……………駄目だ。気が重くなる。
 今から悩んでも仕方ないか。その場凌ぎのパフォーマンスはそれこそ向こうでやったプレゼンテーションで散々身に着けた技能だ。気張って生きろとは言うものも、ぼくのような丈夫な気を持っていない人間はあまり気を張りすぎてもプッツリ切れてしまう。ようはメリハリが大事なのだ。張るときには張って、緩めるときには緩める。その見極めと判断力こそがもっとも必要なものなのだ。断じて思考を放棄したわけではない。
「まあ、戯言だけどね」
 なんにせよ、前回よりもやばいって事はないだろ。
 考えてみれば結構貴重なお嬢様学校の講師という体験をするのもそう悪くないだろ。
 …………ホント、戯言だよ。
 ぼくはようやくシートベルトを締めた。



   

 澄百合学園。
 それは日本屈指のお嬢様学校として名が知られていた場所だ。だが、その実際の姿を知るものはほとんど居なかった。
 そこは世界の財政を司る四神一鏡のひとつ檻神家によって運営される、学校の名を借りたよう傭兵養成施設だ。年端も行かない少女たちを狂戦士として創作する、ぼくのような人間が言うのもなんだが非人道的で、倒錯した目的のために作られた冗談のような施設だ。
 何よりも性質が悪いのは、本人たちは至って大真面目であり、そして十分過ぎるほどの成果を挙げていると言うことだった。
 当時の在校生たちは自虐と皮肉を込めて自分たちの学校を《首吊り学園》と呼んでいた。
 さて、先程からぼくは澄百合学園の説明を全て過去形で言っているわけだけど、つまりそれらの話はあくまで過去の話だったと言うことだ。
 四年前にぼくと哀川さんはこの学校の生徒で、現在はぼくと同じアパートに住んでいる紫木ゆかりき一姫いちひめという女の子を澄百合学園から連れ出すために訪れたとき、ついでに哀川さんが完膚なきまでに潰して廃校にしてしまったのだ。
 多分、今回ぼくをアパートから連れ出すのにあんな強引な方法を使ったのも、きっと姫ちゃんに今回の件を気付かれたくは無かったのだろう。
 あの娘はようやく普通の女の子としての道を歩み始めているのだ。それを過去の呪縛の源にわざわざ連れ出す必要は、これっぽっちも無いのだから。
 そして廃校に追い込まれたその五ヵ月後には《最強》と《最終》の血戦の場になり、校舎そのものがかなりの被害を受けて、とてもじゃないがまともに使える状態ではなくなってしまった。
 結局、しばらくしたらそこにはかつて学校だった建物すらなく、ただの更地になってしまったわけだが、最近になってそこには再び校舎が建設され、学校としての機能を取り戻したのだ。
 最初は元の木阿弥かと思ったが、どうやら今度は真っ当な学校で真っ当に子供たちを育成するのだとか。罪滅ぼしと言うわけらしい。
 ただ、相手が相手なだけにまったくの慈善事業というのはどうにも信じられない。
 それで今度もまた不穏な動きがあったら叩きのめすからその時は手を貸せよ、と哀川さんに言われてぼくはそれに頷いたわけだが、どうやら哀川さんの情報網にその不穏な動きと言うのが引っ掛かったようだ。
 しかし具体的な証拠も情報も無い以上、うかつに手を出すわけには行かない。特に哀川さんの場合は、あの人が動いた時点でそれは終わったのと同然なのだから、もしも違った場合はそれこそ目も当てられない。
 で、ぼくが以前の約定どおりに情報収集という形で手を貸すために侵入したのだが……。
「ホントに普通の学校だよなあ」
 別に曲弦糸でジグザグに切り裂いてる子も居ないし、両手に大型ナイフを構えている子も居ないし、ボウガンを構えている子も居ないし、日本刀を帯刀している子も居ない。
「いや、それは当たり前か」
 いくらなんでもそこまで露骨にやってたらそもそもぼくが潜入する必要が無い。
 さてさて、どうしたものか。まさか初っ端からあちこちに探りを入れるわけにも行かないだろうし、ここはとりあえず手順に従って一度は職員室に向かうべきだろう。
 あまり挙動不審で校門付近とかに居る警備員さんに摘み出されても仕方が――。
「あれ?」
 今、校門のところにある警備員の詰め所らしき小屋の近くで、どっかで見たことあるような人影が見えたような気がしたんだけど。
 気のせい、だよな?
「…………おっと、時間がもうぎりぎりだな」
 遅刻して印象悪くしちゃまずいよな。とりあえず今は職員室に向かうことを優先しよう。
 …………。
 まあ、いつもの戯言めいた後悔なんだけど、ここで少しは疑って掛かれば――いや、結果は変わらないか。どうしたところで避けられるものでもない。
 どうにか指定時間までに職員室にたどり着けた(相変わらず冗談みたいに広い校舎だ)ぼくは哀川さんが用意してくれた書類一式を提出して、さらにそこで渡された書類の必要項目を埋めて提出。これで晴れてぼくは女子高の臨時講師として働けるようになったらしい。
 で、お約束の他の先生との顔合わせなんだけど……。
 何で?
「どうも私も臨時講師としてこの学校に来ている者です」
 どうして?
春日井かすがい春日かすがです。 やっほーいっきー久しぶりだね。 元気にしてたかな?」
「なぜ、あんたが居るんですか」
 ぼくの天敵の一人がさも当然のようにぼくの目の前に居る。気安げに手を振ってるんじゃねえ。
 見た目は白衣を着た理知的で綺麗なお姉さんと、実に魅力的なのだが中身は壊滅的だ。
 前々から読めない人だと思っていたが、何もこんなところで登場しなくてもいいじゃないか。
「ん? どうしたのかないっきー。 感動の再会で声が出ないって奴かな」
「まあ、泣きたくはなってきましたよ」
 ぼくと春日井さんが旧交を温めあっていると、取り残されていた他の教師たちが不思議そうにぼくらをみている。まあ、いきなりこんなやり取りが始まれば無理もない。
「あー、えーと、春日井さんとはちょっとした知り合いと言うか……」
 だが、このぼくの持ち味である曖昧さがいけなかった。今目の前に居るのはあの春日井春日なのだ。あまりの突然な出来事にぼくはその最重要項目をすっかり忘れていた。
 春日井さんはあの淀みも抑揚もない、平坦な声でさらりとはっきりとぼくとの関係を説明する。
「昔私春日井春日はこのいっきーの家で飼われていました」
「――――」
「…………」
 止まる世界。
 ザ・ワールド。
 ぼくの心臓と魂は今、確実に凍りついた。
 ――――――――。
 ――――――。
 ――――。
 ――戯言シリーズ・完。
「いかがなさいましたご主人様?」
「ご主人様とかいってんじゃねえ」
 最高の駄目押しをしてきやがった。
 この人は一体何度シリーズを強制終了すれば気が済むんだ。
「つれないなあ。 私にメイド服を着せてご主人様と呼ばせた上に一人エッチの放置プレイを強要したのを忘れたのかな」
「確かにぼくの記憶力は欠陥だらけだけど、初めから存在しない過去を忘れるなんていう高等技術が出来るほどではないです」
「つまり憶えてるわけだね」
「そんな過去は無いと言ってるんです」
 そりゃあ、確かに似たような状況と現象が無かった訳ではないとは思うが、それだって別にぼくが強要したわけではなく、勝手にそう出来上がっていたわけで、むしろぼくこそが被害者だと思う。
 春日井さんはそんなぼくの逃避を見透かしたように、軽蔑しきった眼差しを向けてくる。
「やれやれ君には本当に失望したよ。 あれだけノリ突っ込みに徹するように言ったのにすっかり忘れてるんだね。 君がそこまでつまらない男だとは思わなかったよ」
「すみません、次からは頑張ります……って、あんたが面白過ぎるだけだよ!」
「…………」
「……って、調教するなよ!」
「うんまあ良しとしておこう」
 なんか評価が厳し目になってる気がする。
 つうかさあ、これって飼われてるのぼくのほうじゃないのか?
「えーと、二人の関係についてはあまり深くは聞かないで下さい」
 周りから送られる奇異の視線にぼくにはそういうだけで一杯一杯だった。きっと変な誤解されてそうだよな。着任早々あんまりだ。
 まあ、仕方ない。なんにせよ、これでもう後は怖いモンなしだろう。
 そう、思ったんだけどぼくはつくづく考えが甘かった。
「随分と賑やかですね」
 さっきまで確かに居なかったはずなのに、いつの間に職員室に現れた別の人物。
 それは春日井さんと違い、十分に予測できたはずだったのに……ぼくは気が付かなかった。そのことについて思考することを避けていたと言ってもいい。
 本来ならば校門のところでズタズタに切り裂いたような制服を着た警備員を見かけた時点でこれは、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、予測できたはずの出会いのはずだ、、、、、、、、、、、、、、、
 そんなぼくの間抜けな逃走を嘲笑うかのごとく、愉しそうに言う。
「彼が今度来た臨時講師ですか」
「ええ。 えっと名前は確か……」
「ああ、構いませんよ。 私もこの方とは知り合いですから、、、、、、、、、、、、、、、
 そう言って、綺麗な長い髪の彼女はぼくに悠然と微笑む。
 慈しむように、威圧するように、正々堂々正面から宣戦布告するかのごとく。
「お久しぶりですね、詐欺師さん。 またお会いできて嬉しいですよ」
「ぼくのほうとしては会わずに済みたかったんですけどね」
 かつての《首吊り学園》においての最高傑作。
 四神一鏡、檻神の鬼札。
 《策師》萩原はぎはら子荻しおぎとの再会だった。





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