何より、終わりなんて、どこにもない――西尾維新

 仮に、だ。
 この世界がひとつの物語だったとしよう。
 事件や事故は物語を彩るファクターだとして。
 ぼくらはそこに登場する荒唐無稽なキャラクターだとする。
 もちろんこの仮定には根拠などない。
 結論へと至る過程など根源からない。
 これはただの例え話だ。戯言にすらならない、そんな話。
 まともに取り合う必要などない。そんなことをしても馬鹿を見るだけだ。

 世界が物語だったとしよう。

 だとすれば世界は運命プロットに随ってただ終わりへと向かうだけのモノなのだろうか。
 ぼくたちはその限られた話数じかんの中で定められた出来事イベントに右往左往として、読者を楽しませるだけの道化キャラクターなのだろうか。
 首を切られた彼女。
 首を絞められた彼女。
 ジグザグにされた彼女。
 喰いちぎられた彼女。
 根こそぎにされた彼。
 ひき潰された彼。
 失格した殺人鬼。
 壊された彼女。
 壊したぼく。
 キャラクターぼくらが何をしたところで結果エンディングは変わらないと言うのだろうか。
 この世界はそれほどまでに不都合きぼうが無い、ご都合ぜつぼう的なモノなのだろうか。

 繰り返していうが、これは過程の話だ。
 根拠などない。根源などない。根本から間違っている話だ。
 今まで読んだことのある物語の中で面白いと思った作品はどれだけあるだろう? その逆につまらないと思った物語もたくさんあるのではないだろうか?
 そんな物語を読んだときに、こう思ったことはないだろうか。
 終わってしまったけどこの続きを見てみたい。
 ここをこうしたらもっと面白くなるんじゃないだろうか。
 自分だったらこうするのにな。
 こういう展開も見てみたい。
 ほんの僅かでも良い。一瞬でもそう考えたことはないだろうか。
 別に無ければ無いで構わない。ただ、世の中にはそう考えてしまう者もいる。
 これだけ壮大な物語だ。色んなキャラクターがいるのも仕方があるまい。どう思おうがそれは自由だ。
 だが、中には思うだけで停止しない者たちもいる。
 自分が想像した世界ものがたりを創造してしまう人物キャラクターもいるのだ。

 続編。
 後日談。
 外伝。
 イフストーリー。

 中には原型がどんなものだったのか分からないようなものまで存在する。
 それでもそれらは間違いなく、ある話を根源とする話であることには変わりない。
 原作を彷彿する、そんな酷似の物語もあるだろう。
 原作を凌駕する、そんな驚愕の物語もあるだろう。
 原作を冒涜する、そんな忌避の物語もあるだろう。

 物語はひとつじゃ、ない。

 例えそれが平行していて、決して交差することの無い物語だったとしても、それは根拠も根源も必要とせず、確固として存在している。

 これから語るのはそんな物語のひとつだ。
 僅かな希望と我侭な願望に彩られた、そんな物語だ。
 どこまでも原作に平行して、決して交わることの無い、交わった瞬間に崩壊が始まる世界。
 どこまでも暴悪で暴圧で暴虐で暴食で暴走の物語。
 都合ぜつぼうなど一切取り合わない、不都合きぼうがばら撒かれた物語。
 故にこの世界ものがたりには運命プロットは存在せず、終焉エンディングすらも定められていない。
 ただぼくらキャラクターが書き綴る出来事イベントだけが連なり続いていく物語だ。
 理が通らない、一貫性がない、まとまりなど存在しない、歪み切った物語。

 失格の物語――。
 ――欠陥の物語。

それでよければ、はじめよう






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